【イースター企画】レディ

01

薄暗く、埃っぽい倉庫。
小さな窓から差し込む光が、私と、小さなレディをうつしだす。

踏み込めば、床がぎしりと悲鳴をあげ、眠っていた蜘蛛が影へ逃げ込む。

「あれがほしい。」

レディの指先は、木製の棚、その一番上、エメラルドの瞳が美しいくまのぬいぐるみを示す。

「あれは、彼女のものです。」
「彼女って?」
「彼女は、彼女。」

レディは、むっとした表情で私をみあげる。

「くれないの?」
「私からはとても。」
「ふん。いいわ、自分でとるから。」

棚に足をかけ、レディの身長が少し高くなる。

「いけません、レディ。」

こちらの声など気にもせず、一歩ずつ登っていくレディを見守る。

「服が汚れてしまいます。」
「構わないわ、こんなもの。」
「レディの大好きな、おばあ様からの贈り物ですよ。」
「でも、だって、わたしの趣味じゃ、ないもの。」

足をかける場所を探りながら登っていく、真っ赤なワンピース。
その上質な布は棚の埃をふきとり、所々白くなっている。

「もう、邪魔よ、これ」

レディの小さな足が、着地したい箇所に無理やり押し込まれる。
その圧力に耐えられなかった本が、バサバサ、と床に散らばり、埃がぶわりと舞う。

「あー、その……綺麗になったと思わない?」

おばあ様が見たら卒倒なさることだろう。
散らばった本を拾い上げていると、ご機嫌な声がふってきた。

「ふふ、可愛いわ」

ようやく頂上に手が届いたレディは、満足そうにくまを見つめている。

「すてき」

顔を見ずともわかる、うっとりとした声。
しかしそれは、すぐに冷めた声色に変わった。

「……おりれないわ」
「まるで猫のよう」

シャッと威嚇される。
私は本をテーブルに置いて、毛を逆立てているレディを本棚からはがし、床へおろした。
もちろん、くまは棚の上に置いたまま。

レディは小さな腕を組み、はぁ、と短く息を吐く。
不満たっぷりに睨み付けてくるのを無視し、ブロンドの髪を整え、ワンピースの埃を払う。
……ああ、靴も真っ白だ。
ハンカチを取り出し、レディの前にしゃがむ。

「そんなにあれが気に入りましたか」
「いじわるな人と話したくないわ」
「……」
「いま馬鹿にしたわね」
「滅相もございません」

赤子をあやすように笑って見せると、さらに機嫌を損ねてしまった。

「……かわいいのに」

くまを見上げながら、呟く。
レディはずいぶん、あのくまにご熱心のようだ。

「レディ、ゲームをしましょうか」
「ゲーム?」
「ええ」

靴の埃を拭ききり、立ち上がる。

「勝てば、あのくまが手に入ります」
「ほんと?」
「私は嘘をつきません」

先ほどテーブルに置いた本の一冊をとり、レディに差し出す。

「どうします?」

レディはタイトルを眺めたあと、にやり、と、およそ少女らしくない表情で笑った。



2019/5/6 

創作戦艦星八

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