シャルル
*シャルル
ツンデレっぽい少年。姉が二人いる。
「あんたの笑った顔、好きだよ」
そう言われ、首をかしげた。
笑った顔?
「ごめん、嫌だった?」
いつのまにか眉間にシワがよっていたらしい。べつに嫌じゃない。ただ、自分の「笑った顔」が、想像できなかったのだ。
*
面白ければ笑う。声を出して笑ったことも当然ある。
人気の無い森の奥。池の端にしゃがみ、そっと中を覗きこんだ。ゆらゆらとした水面に映るのは、よく知っている仏頂面。
金色の髪に青い目。
そう、この顔だ。この顔以外、知らない。
「……っ!」
バシャン。
たった数秒。水面と目があって、俺は池を蹴飛ばした。
「…………」
息を大きく吸って、なんとか冷静を保とうとする。
だめだ、顔を掻いて、掻いて掻いて、跡形もなくめちゃくちゃにしたい。震えるほど力の入った指で土をえぐり、水面に投げつける。
ぽちゃん、と小さな音がした。
息を、吐く。
どうしようもなく憎い。
母によく似た、この顔が。
はやくここから離れようと、立ち上がる。
忘れてしまいたい。はやく、はやく。
指先についた土を服で払い空を見上げた。
「……」
目にうつるもの全てが最悪に感じた。今日は晴れで、風の弱い、心地の良い天気だった気がするが、今はその無音が体にまとわりついてただ気持ちが悪い。
「笑った顔がわからない?」
考えてみれば当然のことだ。憎いものを前にして笑えるわけがない。
「あんたの笑った顔、好きだよ」
好きで、いい。俺だって楽しい方が好きだ。怒っているよりずっといい。
「……」
ただ、受け入れられない。
この顔が笑うところなんて、あの女の笑顔なんて、見たいはずがない。見れるわけがない。その証拠に一度だって見たことは
「…………」
ほんとうに、なかっただろうか。
「……。
……くだらない」
吐き捨てた言葉に答えるものはいない。
俺は少し足早に、にぎやかだろう市場へ向かった。
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