西田 桃子 1

西田桃子-ニシダモモコ

某都内で働くOL。何事もなく、普通に過ごしたいと思っている。大人しい性格で、闇斬人になったことを必死に隠している。会社では絶対に憑依したくない。お酒が大好きで、酔うとよく喋る。

桃源-トウゲン

人型の侍。とある理由で自害し、成仏できなかった。それなりに歳をとっているため、血気盛んでは無いが、戦う時の殺気は健在。生前が名のある剣豪で、勢力の強い将軍に仕えていたとか。現代にとても興味があり、シャイニーバックスがお気に入り。

私は、普通に働いて、普通に結婚して、普通に家庭を築いて...そうしたかった。

『桃子殿、桃子殿。』
(はいなんでしょう)
『今日はシャイニーバックスには行かないのだろうか?』
(きゅ....給料日前なので...)
『うむぅ....左様か....桜ふらぺちーの、飲んでみたかったでござるな...。』
(え、味ってわかってたんですか。)
『度合いにもよるが、拙者と桃子殿は味覚を共有できますぞ。』
(は...はぁ...。)
『侍によっては痛みも共有できるとか。』
(桃源さんは大丈夫です?)
『うむ、大丈夫だ。ありがとう。』

オフィスビルに入るとゴソゴソとカバンから社員証を取り出す。エレベーターに乗り、13階のボタンを押す。騒がしく見える街並みを眺めながら13階へ到達し、オフィスへ足を進めた。

(桃源さん...)
『ん?』
(その...この会社には、いないんですよね?闇斬人...)
『ああ、おりませぬ。妖狐の気配もしませぬ。』
(....そう...良かった。)

デスクにつくと、早速仕事に取り掛かる。桃源はつまらなそうにし、桃子の元を離れ、オフィス内をうろうろしている。布で顔を隠し、白髪の髪を後ろで一つに束ねているその侍は、部長の机を覗き込み、腕を組んでまじまじと見つめている。なんだか、その様子がおかしくて、桃子はくすりと心の中で笑っていた。

仕事を定時で終え、帰宅の準備をする。桃源が戻ってきた。
(今日はどこまで行ってたんですか)
『第三会議室という所まで...拙者の気配は感じ取っておりましたかな?』
(はい、結構くっきりと)
『左様か...今度どこまで離れても大丈夫か試す価値有りですな!』
カッカッカと桃源が笑う。どうやらずっと一緒に居なければいけないわけではないらしい。

というか、別の人に取り憑いて欲しい。
と、このように思うだけならどうやらあちらには伝わらないらしい。伝えたいと思って言葉を頭の中に浮かばせると、伝わる。なんとも不思議だ。普通こういうのは、周りに気が付かれないように声に出すのだろうが、もうその方法は古いのかもしれない。なんにせよ、声に出さずに意思疎通できることについては助かったと思っている。

いつもの帰路をスタスタと歩いていると、ふといつも前を通る公園が目に入った。いつもは気にしないのだが、何かいる。

(...男の子?)
『うむ...桃子殿、足早にここを去った方がよいかもしれん。』
(え、それどういう...)

「お姉さん...」
気がつくと、公園の中心にいたはずの男の子が目の前に立っている。下を向いていて、顔が見えない。なんだか気味が悪い。

「え...あ、」
おどおどしていると、男の子が顔をあげる。今にも泣きそうな顔だった。

「に、逃げて」
「えっ」

その瞬間、速かった。目の前で刀と刀がぶつかり合い、火花をかすかに散らす。遅れて鉄の当たる甲高い音が聴こえた。

『すまぬな、桃子殿。急に憑依してしまって。』

カチカチと刀が鍔迫り合う。桃子は一瞬訳が分からなかったが、もう今は意識しかないのだと察した。そして目の前の男の子は、獣の毛皮をかぶっている。口だけ覗かせ、にいっと笑う。

「桃源...久しぶりじゃのう...」
「...現(ウツツ)...」

この夜から、普通ではない日常が、さらに加速したのだ。

創作戦艦星八

八野と星野の創作投下サイトです。

0コメント

  • 1000 / 1000